学ぶこと

抗菌薬の考え方、使い方

抗菌薬の考え方、使い方

より

抗菌薬の選択の難しいところは、たとえ「間違った」選択をしても、患者さんがよくなってしまいやすいところにあります。
例えば、広域に過ぎる抗菌薬は病原菌もそうでないのも抹殺してしまいます。患者さんはもちろんよくなりますが、これは必ずしもいい抗菌薬の選択とはいえません。もともと抗菌薬が必要でない場合、例えば風邪に抗菌薬をあげるというのもよくある話です。抗菌薬をあげると(そしてたとえあげなくても)患者さんは次第によくなってきます。
このような抗菌薬の使い方をして、腸内の常在菌を殺しても患者さんには不利益なだけですし、なにより将来の耐性菌も心配です。高価な新薬を無意味に使うというのは医療経済的にもいい方法とはいえません。
これらは抗菌薬の誤った使い方ですが、医師はそれとはなかなか自覚できません。患者さんはよくなっているのですから、誰も文句をいうものはいないのです。

抗菌薬を間違って使っていても、適当に薬屋さんが勧めるものを出していても、医師はこれといって「自分が間違っている」という自覚を持ちにくい、というのは痛い事実です。多くの医師が抗菌薬を考えなしに使っている最大の理由はこの辺にあるのではないでしょうか。考えなくても別に大きな違いはない(ようにみえる)。自分は間違っている、という感覚、痛みを伴わないと自分の行動というのはそうそう変わるものではありません。

p.7
<ふーん、そんなもんかねえ、でも近所の開業医の先生は「学生の時の勉強なんて現場では全然役に立たない」っていってたぜ>

それは、失礼な言い方かもしれませんが、「役に立たない」のではなく「役立てていない」のです。臨床現場で基礎医学の知識は大いに役に立ちますよ。

「正しい」こと(学問的にも現実的にも)を実行することは難しいこと、
学生時代の勉強したことを臨床に生かせるか生かせないかは本人の実力によるところがあること、
をはっきりおっしゃっている臨床の先生のご意見を初めて見たように感じる。