世界観を学ぶこと

抗菌薬マスター戦略 -非問題解決型アプローチ-

抗菌薬マスター戦略 -非問題解決型アプローチ-

監訳者の序文より
岩田健太郎先生のおっしゃっていることが、医学の勉強の上で的を得ていらっしゃると痛感した。

日常よく使っているのに、断片的な知識しかもっていない薬がある。解熱鎮痛薬、抗けいれん薬、抗不整脈薬、オピオイド、降圧薬、糖尿病薬、抗うつ薬。どれもこれも、多くの医師が、一度は使った、けれども体系的には勉強していない(薬理学の試験以来)ものが多い。



よく、「お好みの抗菌薬は何ですか?」と問われると、私は「プロは好みで薬を選らばないんです」と答えている。ある薬について「識っている」ということは、同系統のほかの薬も同等に理解したうえで、理性的、知的な比較検討ができることである。たとえ、結果としては、週に用いる抗菌薬がたったの3種類であったとしても、である。とはいえ、そのような作業を、用いるすべての系統の薬剤にアプライするのは至難の業である。すべての解熱鎮痛薬を網羅し、すべての抗けいれん薬を網羅し、すべての抗不整脈薬を・・・と用いる薬すべてに行えるのは、スーパードクターか何かのマニアにほかならない。過ぎたるは及ばざるがごとしで、そのそうなマニアは、しばしば患者の話を聞かずに、文献ばかりを読みまくるような本末転倒を演じていたりする。
爆発的な医学知識の増大に、私たちは「問題解決型」のアプローチという1つの答えを得た。ダイダクティックな(教壇からお説教をするような) レクチャーを聴いたり、教科書を精読するのではなく、臨床的に得られた疑問に関連した情報をすばやく獲得する。UpToDateに代表される検索型教材と、処理速度の速いコンピューターがこれを現実とした。
しかし他方で、私たちはある世界観をスキャンしないと臨床的「疑問」すら生じてこずに、容易に日々を過ごすことができることもある。限られた時間と果てしなく拡大する医学知識、世界観の網羅と簡便性。相反する条件をぎりぎりまで絞った抗菌薬の教材として、。。。

今、臓器横断的に「腫瘍」であったり「感染症」について学ぶことが講義の形ではない。
縦糸と横糸の勉強が必要という言葉を以前聞いたことがあるが、縦糸(臓器)、横糸(病態)を上手に結び付けていくには学ぶ場(研修する病院とか)を選び、また自分で真剣に勉強するしかないのかもしれない。