心がけること、生き延びるのに必要なこと

p.153

はっきり言うが、「医者は道具」だ。今のこの日本において、医師は社会保障を担うただの兵隊だ。管理者から見れば、働く医療者は「稼ぐ医療器具」でしかない。医師の価値なんてことを真剣に考えているから概ね医師は辛くなる。人間の健康を影で支える医療機器とでも思っていたほうが、私は気楽だ。だから、どんなことがあろうと、現時点では、自分自身で何かを支えに医療を全うしていくしかないのである。

p.131

医師は何かを支えにしていないと、患者や社会の裏切りに直面した時に心の支えを失ってしまう恐れがあるのである。

p.190

医療の現場は、そのほとんどを人と関わりあって過ごしている。だから人間を相手にしない趣味や興味をひとつくらいは持っていたほうがいい。つまり、気を紛らわせる方法を対人関係だけに求めないほうがいということである。

p.128

まずは自分のために医師になれ。自分のために働け、自分のために腕を磨け、自分のために愉しめ。医師もトップアスリートも自分のためにやっているのである。そんな心境でなければよい結果は出せないと私は考える。

p.204

これからの時代、高校の成績が良いから医学部を選択したいという学生がいたとしたら、それはほとんど発展途上国的な発想である。発展途上国であれば、まずは食い逸れない職業というものが重宝がられるであろう。極端な言い方をすると、先進国では社会を変革させる、あるいは社会を支配する職業に就くのが成績の良い、いわゆる「エリート」としての生き方であろう。日本でいえば、いわゆる高級官僚であるかもしれないし、あるいは、起業家であろう。頭脳ひとつで世界を股にかけ、国を背負って生きる道である。これに対して医師は技術者である。だからと言って、「医師がエリートの進むべき道ではない」と言っているわけではないし、「エリートは官僚になるべきだ」と言っているわけでもない。少し乱暴な言い方だが、「成績が良いとか、家業を継ぐなどを理由として、医療者の道を選ぶ時代ではない、その気になればどんな人でも、エリートの道を進むべく、上を目指したほうがよい」ということである。「医師になることが、安定した人生の落としどころだと考えてほしくない」と言いたいだけである。