医学教育に関すること

医学部の「臓器別」の内科学、外科学。
最先端の内容がたくさんある。実習を受けるのも大学病院である。
「うちの科はこういうのが面白いよ!」
実際にその「面白いの」をやれるのは研修を出て、その科を選んだあとである。「面白いの」もよいが、その科を選ばないとやれないレベルのことばっかりな気がする。知りたければ情報にはたいていアクセスできる状況ある。
学部の授業は「宣伝」でよいのか。学部の実習は「見学」でよいのか。最先端の鮮やかな手術を見学して「俺もこれをやろう!」と思う人がいるのはもちろん大切なことだが、もっと身に着けなくてはいけないことがあるはず。

今のシステムではどの大学でも4年生から5年生にあがるときに(正確には臨床実習に進む前に)CBT,OSCEという准国家試験を受けて合格することが求められている。国家試験を受けた研修医と、CBT・OSCEを合格した5年生の4月、知識量の違いがあるのはあってしかるべきだろうが、「やれること」「実践で得た知」の違いはどの程度だろうか?

学部の間には「どの科にいっても必要なこと」をしっかり勉強する。山形大学医学部長の嘉山教授も 6年生の講義で鑑別診断の勉強をもう一回やるくらい鑑別診断は重要だとおっしゃっている。

2009年3月18日発行のMRIC

【 医学部における従来の講義 】

 振り返ってみますと、医学部の講義は明治以来一貫して教官から学生にむけた一方向性で、主眼は知識の伝達にありました。確かに学ぶ術が限られていた時代には知識自体に大変な価値がありました。杉田玄白ターヘル・アナトミアを翻訳した時代には、解体新書を知っているか否かは医師の能力を規定する決定的な差であったことでしょう。しかし現代においては和書が充実し、洋書もAmazonなどを通じて簡単に手に入るようになりました。加えてOnline学習教材の出現など自己学習の手段は多様化しており、時代の変化とともに、教科書的な知識は十分個人で勉強可能になりました。

 伝統的な講義の中で医学的知識は6年間で一定の傾きを持って伸び続けていま
すが、臨床現場での医師の思考過程を身につけるトレーニングはほとんどなされておらず、臨床推論能力は医学部卒業時点ではお粗末なものです。方法論を教えられないままに知識の統合が学生に任され、臨床現場で使える形に知識が整理されていないことが、先にのべた医学生の漠然と感じる不安の要因となっていると考えられます。

臨床研修制度の発展的解消には卒前病棟実習の充実が不可欠
 津田健司(北海道大学医学部医学科6年)

 少なからぬ医学生にとって5年生から始まる病棟実習は特別なものであり、聴診器を持つのも嬉しく、期待にあふれて病棟に向かう。しかし、半年もたつと彼らのうちの幾人から情熱は消えうせ、最低限でこなそうとし始める。なぜなだろうか。原因の一つに、医学生に認められている手技が極めて少ないことが挙げられる。
 現在の医学生の主な仕事は、一度医師が済ませている問診と身体診察をもう一度なぞることである。しかし患者さんにもう一度身体診察をする理由を聞かれたら、「練習のため」と素直に答えるか、言い淀む他ない。医学生には患者さんの診療に参加する正当的な理由がないのである。だが「練習のため」と答えると、「ぜひたくさん練習していいお医者さんになってね」と言っていただけることが多く、本当にありがたいことだと感じている。患者さんの善意で成り立つ医学生の病棟実習であるが、問診と身体診察だけでは一年をかけてやるほどの内容ではなく、各診療科の醍醐味を味わえずにデモチベーションの一因になっている。
 演者は医学生の立場で臨床研修制度改定の問題点を、反対署名やシンポジウム開催などの形で発信してきた。特に、研修医の都道府県別・病院別の募集定員の上限を設置する、いわゆる「研修医計画配置」は、地域医療の再生に結びつかないこと、憲法上等しく保障された居住・移転及び職業選択の自由を侵害する可能性があること、教育的視点が欠落し医療の質を低下させること、から強く反対している。 臨床研修が実質一年化される今、臨床研修制度自体も見直しの時期に来ている。社会状況などにより常にアップデートが求められる医師
教育の内容を法で規定し、国会審議の対象とするのは非現実的であり、世界的にみても異様である。米国においてもローテート研修が行われていたが、カリキュラムを卒前教育に圧縮し現在はストレート研修である。我が国においても、臨床研修制度の発展的解消には卒前病棟実習の質の充実こそ必要である。

医学部定員も1.5倍になる。講義室を広げるのも結構だが、座学は何とかなるのだから、実習とくに臨床実習が問題になるだろう。学生を「お客さん」ではなくて、「医療チームに学生を組み込む」つもりで実習を組まないと意味が薄い。この間あった看護師さんに「今の医学生の実習を見ていてどうか?」というと、「先生について見学していることが多いから、あんまり実際のところ絡むことはない。」といったお話だった。この苦しい医療現場に学生をいれるなんて現場を圧迫するだけだ!なんて意見もどっかから出てくるだろうが、学生に4年生までもっと勉強させる仕組みをつくったりして、やれることを増やすとかいろいろ工夫しどころだと思う。研修医の指導で忙しい→今の研修医レベルまで医学生のレベルを引き上げる、みたいな発想はダメなのだろうか?医学生の間に学び方を学ばせることに重点を置いて、たとえば外科の見学は学生の希望に応じてオプション的な扱いにする、などできないものか?外科に進みたい者は学生中に○○コマ、見学とレクチャーを受けなくてはいけないようにするなどよいかもしれない。
実習の場を市中病院に広げることも必要だろう。
医学生が大学病院だけでなく市中病院で実習を行うことに関して、指導体制をきちんとした上で、国民に理解を求めることが今後間違いなく必須になるだろう。