インフルエンザワクチンの効果

すでに東大医科研の上先生の記事でも取り上げられていた内容に近いが。
記事中で木村氏は「ワクチンは効くかわからないけれど、あれば国民が安心する」という意見でワクチンに賛成している。(もう一点はワクチンと行政の兼ね合いの話)
しかし、「ワクチンを打とうとする」こと自体が混乱を招いている面が少なからずある。「最終的には7700万人分ある」けれど、「最終入荷」の2月から3月くらいになったらどんな状況になっているのだろう?余らせたらどうするのだろうか?



厚生労働省医系技官 木村盛世(きむら・もりよ)

2009年10月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
http://medg.jp

ワクチンの有効性は、BCGワクチンで行われた前向き調査によってのみ判定可
能である。 抗体価の上昇がワクチンの有効性を示すかのような報道や政府見解が示されているが、抗体価との因果関係における疫学的確証はない。もしその関係を立証したいのであれば、ワクチンを打つ群と打たない群とに分け、前向きに追ってゆくとともに抗体価を調べる以外にはない。

しかし、インフルエンザには他のタイプのウイルスとの混合感染があり、結果
の解釈が難しいと共に、現状でワクチンを打たないという選択肢が社会的に認められるかという大きなハードルがある。同様の方法で行われているHIV/AIDSワクチンの研究が行われているが、インフルエンザとは状況が違う。抗体価とワクチンの有効性についての仮説が独り歩きしているのは、BCGワクチンの有効性とツ反の大きさが無関係ではあるのにもかかわらず「ツ反で陽転したら結核に罹らない」という間違った考えが独り歩きしている現象と同じである。「ツ反で硬結の大きい人からは結核発病が多い」という事実と混同されているのではないかと思う。

重症化を抑えるという議論もあるが、これについても前向きにみて行かないと
結論の出しようがない。また重症化の基準についてもケースバイケースであろうし、もともと基礎疾患を抱えている人たちであるから他の薬をワクチンと同時に使用することは多いであろう。この場合純粋にワクチンのみの効果を検証することは極めて難しい。

今まで述べてきた状況下で、ワクチンはどうしても必要なのだろうか。筆者は、ワクチンの有効性の議論は度外視しても全国民分用意することが必要だと考える。それは2つの理由からだ。第1に、現状のような新型インフルエンザパニック状態では国民に安心を与えるという意義は大きいということである。もし仮に用意したワクチンが無駄になったとしても、国民のパニックを防ぐことは危機管理の初歩である。第2に、今回のワクチン全国民導入を機会に、諸外国から大きく立ち遅れている我が国のワクチン行政を進歩させる目的がある。どんなワクチンにも副反応が伴うが、国民全体を病気から守るという国益がリスクを上回った時に導入するのがワクチンである。それ故、ワクチンは公衆衛生学的手法である。現制度化では、重篤な副反応が起こった際にも訴訟という集団でしか解決の方法がない。しかしワクチンの基本理念からすれば、副反応が生じたからと言って国や製薬会社が訴えられること自体がおかしい。そうであればアメリカに倣って免責制度を導入することが国にとっても国民にとっても泥沼の争いを避けることになるだろう。また、現状では雀の涙程度しか補償されない保険制度も抜本的な改革が必要である。