インフルエンザワクチンをうつことと、人にうつしてしまうかどうか

昨日は、インフルエンザワクチンをうつことと「重症化」予防の話だったが、今日は「held immunity」「ワクチンを打ったら人にうつしにくいのか」ということにスポットをあててみた。

http://medg.jp/mt/2009/08/-vol-198-1.html

エビデンスのない新型インフルエンザワクチン】


 厚労省は、秋から冬にかけての流行に備えて、新型インフルエンザワクチンの購入を検討しています。このような報道を見て、皆さんは、「ワクチンは接種するのが当然だ。接種すれば感染を防げる。」とお考えではないでしょうか。


 意外かもしれませんが、季節性インフルエンザワクチンには、あまり予防効果はありません。重症化を防ぐ可能性があると言われていますが、それも100%ではありません。その効果は、ワクチンの型が合っていない場合10〜30%、型が合っていても40〜80%程度です。


 実は、厚労省が季節性インフルエンザワクチンの有効性を認めて、予防接種法に位置づけているのは、65歳以上と基礎疾患のある人だけです。裏返せば、厚労省は、それ以外の人々には定期接種するほどの安全性・有効性は明らかではないと考えていることになります。


 では、新型インフルエンザワクチンの効果はどうでしょうか。新型インフルエンザワクチンも、季節性インフルエンザワクチンと同程度の効果と推測されていますが、世界中で初めて使うのですから、どの国もどの製薬企業も、十分なデータを持っていません。既に治験を始めている国もありますが、治験では、少数の患者を対象に、短期間しか観察できませんから、長期的な有効性や稀な副作用に関して十分な情報を集めることが出来ません。つまり、新型インフルエンザワクチンに関しては、有効性も安全性も、よくわからないまま使おうとしていることになります。

 ▽ 「新型インフルエンザに対するワクチン接種の基本方針」を読む ▽


      東京大学医科学研究所
        先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門
        上昌広


※今回の記事は村上龍氏が主宰する Japan Mail MediaJMMで配信した文面を加筆
修正しました。



【輸入ワクチンは本当に危険か?】

 輸入ワクチンの安全性が懸念されています。厚労省は、ワクチンに関するパブ
リックコメント募集の案内で、
1) 国内外で使用経験がないこと、
2) 国内で使用経験のないアジュバント(免疫補助剤)を用いていること、
3) 国内で使用経験のない細胞培養による製造法が用いられ、「がん原性は認められないものの、腫瘍原性がある」
と説明し、アジュバントの使用と、細胞培養法の危険性を強調しています。これを読むと、誰でも輸入ワクチンは危険と考えるでしょう。

 ところが、この説明には具体的なデータは示されず、かなり一方的です。私は、
輸入ワクチンの危険性は厚労省が喧伝するほどのものではないと考えています。
その理由は以下です。

 我が国が輸入を考えている新型インフルエンザワクチンは、ノバルティスファーマ(スイス)とグラクソ・スミスクライン(イギリス)の製品です。前者は細胞培養法を用い、後者は日本と同じ鶏卵培養法を用いています。細胞培養法は、鶏卵培養法より効率が良いのが特徴です。今回、ノバルティスはMDCK細胞というイヌの尿細管上皮由来の細胞を用いていますが、欧州では07年に同法を用いた季節性インフルエンザワクチンが承認され、臨床現場で用いられています。アジュバントは入っていませんが、これまで大きな問題は指摘されていません。厚労省は、この情報は伝えていません。

 厚労省は、細胞培養法で作成したワクチンを接種すれば、微量の動物細胞由来物質が体内に入り、腫瘍化の可能性が否定できないと指摘していますが、これは杞憂でしょう。ワクチン接種の際に混入する微量物質が原因となって、腫瘍が発生することなど、常識的に考えられません。

 さらに、厚労省は、「がん原性はないが、腫瘍原性がある」などと、一般人に理解できない言葉を使っていますが、これは不適切です。腫瘍を専門する私でも、何が言いたいか分かりません。このような表現を用いる場合、白血病や肉腫などの、上皮細胞由来でない悪性腫瘍か、あるいは良性腫瘍を指します。厚労省が、リスクを本気で心配するなら、具体的に書くべきです。勿論、専門家は否定するでしょう。

 次は、アジュバントについて考えましょう。グラクソ・スミスクラインは、「アジュバントとは、少ない抗原量で高い免疫応答を惹起させるためにワクチンの核となる抗原に添加するものです。「抗原節減型」ワクチンによって、大規模な人数分のH5N1型ワクチン製造が可能となり、より多くの人に対してインフルエンザ・パンデミックから守るための集団接種が出来るようになります。」と、パンデミック対応におけるアジュバントの意義を説明しています。

 新型インフルエンザワクチンでは、グラクソ・スミスクラインはAS03、ノバルティスはMF59というアジュバントを用いています。AS03は、これまで市販されていませんが、過去にトリ・インフルエンザワクチンのアジュバントとして1万例を超える治験が行われています。一方、MF59を配合したワクチンは97年に初めて承認、過去に4,000万回分が出荷され、1.6万回の治験実績があります。両者とも大きな問題は指摘されていません。このような具体的な情報を厚労省は紹介すべきです。

 勿論、新型インフルエンザを対象とした初めてのワクチンという意味では、慎重な対応が必要なことは言うまでもありません。特に、ノバルティス社ワクチンでは、MF59とMDCK細胞を初めて併用していることには留意すべきです。現在、両社は急ピッチで治験を実施しており、一部の結果は公表されています。対照的に、国内メーカーは治験をやらないようです。これでは、どちらが安全なのか分かりません。

http://georgebest1969.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-fb64.html

季節性インフルエンザワクチンが他人への感染性を減らした り、集団感染予防に役立つだろうことを「示唆する」 論文は多々あります。インフルエンザワクチンのherd immunityはあると考えた方が妥当で、たとえば院内感染 予防においてもそれは期待できます。CDCのガイドラインにもそれは明記されています。最近では、米国は医療従事者が新型ワクチンを打つのは「患者の蔓延を守るため」と明記しておりこれが義務とするよう働き掛けているくらいです。

もちろん、「エビデンス」には乏しい、という批判はあるかもしれません。しかし、それをいうなら、政府の言う「重症化を防ぐ」なんてエビデンスは皆無です。それを「示唆する」臨床データすら存在しません。

「医療者がインフルエンザワクチンを打つことが、患者のインフルエンザ感染(蔓延)を予防する」という命題は真か偽か。
疫学的な視点から見れば、なんでこうなのかわからなくても、「医療者がワクチンを打って、結果なんでかわかんないけど、患者のインフルエンザ蔓延が減るなら打てばいいじゃないか」ということに落ち着く。確かに最初は「なんでかわかんないけど効いた」というものが多い。抗生物質だって最初に見つかったばっかりのときは、細菌が死ぬことしかわかんなかったわけで、理由はわからなかった。(例としては適切かどうか怪しいけれど)
ただ、インフルエンザワクチンを打っても「インフルエンザを罹るのは防げない」とすれば、インフルエンザワクチンを打っただけで感染拡大を防げるのはよくわからない。「インフルエンザに感染して症状が出ること」と、「インフルエンザを人にうつすこと」の相関性は正直なところよくわからない。「症状が出なくてもうつる」とかいう話もあるし。。

「症状が出なくてもうつす可能性がある状態の人(インフルエンザに感染しているが症状がない人)は、ワクチンを打っておくことで人にうつしにくい状態を作れる」とか?
仮説だけならいくらでも作れそうな気がするけれど。