医者になってどうする! より

医者になってどうする!

医者になってどうする!

p.54

今日、明らかにされている医療問題は、すべて今までのツケである。日本の医療がこれだけ混乱しているのは、制度の問題もあるであろうが、関係者が本音を語らなかったからである。命に関することをそう易々と口にすることはできないこともよくわかるが、この日本の医療をどうしたいのか、どういう方向に向かわせたいのか。そうした方針が見えてこなかった。「医療や保険にはこれ以上金をかけません。経済成長に使わせてください。したがいま
して医療者や患者にとっては厳しい状況が続きますが我慢してください」と言われれば、納得はできないが理解はする。「暗黙の了解でお願いします」ということではもう立ち行かない。病院や医療者に福祉の最終的なツケを持ってこられても何も解決しない。

p.224

病院に必要なのは、経営者でもベテランで優秀な医師でもない。単価の安い医師である。若い医師や文句を言わずサービス残業する医師である。誇りを持った上質な医師を多く作りたいのではなくて、医療費の増額を最小限にできるような底辺医師を増やして、安くこき使いたいだけである。規制緩和と市場競争がもたらあすものは格差と競争である。医師増員の政策には、そうした裏があることに気付かなければならない。
「研修医は何を考え、どうすべきか?」の項でも述べたが、プライマリ・ケア推進の方向付けを見た場合に、裏を返せばそれは専門医療の軽視ということでもある。その背景には、高邁な理念と相反する医療費抑制政策の陰が見え隠れする。患者の生死に直結するような高度先進医療を抑制すれば、医療費を抑制できるからである。日本の医療の現実を十分に説明することなく、「すべての医師にプライマリ・ケアを」という理念を掲げればどのような事態を招くか。おそらく多くの国民は、一人の医師が多様な患者のニーズすべてに対応できるし、そうすべきだと感じるであろう。しかしながら、これは不可能であり、このような前提で医療制度を構築している国はない。世界のどこにも存在しない医療制度を理想として国民に提示すれば、期待と現実とのギャ
ップはますます開く。そして、医療不信や医療訴訟などのトラブルの温床となっていく。