システムバイオロジーvs.システム生物医学?

http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/profiles/008/index.html
東大の先端科学技術研究センターのシステム生物医学の教授 児玉龍彦氏の話から

特に欧米の研究は「要素還元論」で徹底していますから。(中略)それで先端研に移ってきたときに、「要素還元論」的な研究を一時ストップして要素の関係を見ていこうとして始めたのが、「システム」を発想したきっかけです。同じ頃にアメリカを中心に、コンピュータで計算すれば生命の予測が出来る、というシステム生物学が出てきました。それは要素還元論の高次版みたいなもので、要するに微分方程式を解けばいいという簡単化した考え方なのですが、私は微分方程式になるかどうかもわからないのに方程式を解くのはおかしいのではないかと思っていました。

システム生物学vs.「逆」システム生物学

それに対して先端研で「システム生物医学」と称して取り組んでいるのは、単にシステムだけを想定するのではなく、全体は複雑で解明できないかもしれないが、生物に介入するということ、そこで予想どおりの現象がおこるか、予想と異なることがおこるかを検証することはできると考えました。現象を捉えてモデルを作るのでは無限にモデルが出来るだけですから、実際の生物現象に介入してその結果からモデルを変えていく、あるいはシステムを同定する、という作業が大事であるという段階からスタートしています。

要素還元論がダメだというより、逆システム学というシステムを同定し、システムを考える中で出てくる方法論によって、どのような個人的な成果が生まれるか、どのような処方箋がかけるか、治療薬が作れるかということが課題ですね。

コンピューターの分野の専門家と思しき人がネットで児玉氏の「逆システム学」については、いろいろ書いている。「逆システム学」の応用か。

http://www.atmarkit.co.jp/im/carc/serial/thinking03/thinking03.html

果たして複雑なシステムを要素還元主義か全体主義で相手にできるのだろうか? 「逆システム学」(金子勝児玉龍彦岩波新書岩波書店、2004)ではシステムのとらえ方を根本から見直している。「逆システム学が取る方法は、システム全体をつかさどる原理の探求でもなく、システムを要素に分解してから組み立て直すのでもなく、環境や仕組みがちょっと変化したときにシステムとしてどのような変化が起きるかを見ることから、システムを解明し、制御しようとするやり方である。非常にあいまいだが、極めてプラクティカルなアプローチといっていい。」

http://ameblo.jp/othonnwoyome/entry-10042280389.html

金子らが本書で提唱する”逆システム学”は、要素還元論全体論の中間領域、制御のしくみに注目するものである。

http://ysk5.s58.xrea.com/mt/archives/002130.html

その意味で,ある種の単純化された人間観や社会観を前提にして一つのシステムを想定する安直な方法を,筆者たちは拒絶している.つまり,筆者たちはシステム全体を明らかにするには,依然として「不可知」な領域が存在することを認める.そこで「群盲象をなでる」ということわざのように,さまざまな実験や,経済政策の結果から,いかなる制御系が働いているのかを明らかにしようとする考え方をとるのが,逆システム学の方法なのである.
(p.10-11)

今後の研究の動向としては、
まだこれから深く深くシグナリングとかの要素を発見していこうじゃないかっていう研究もある反面、「既に出ている結果をうまく使いこなせば、実用面では使える状況にあるんじゃないか」っていう視点をもって研究するのもありなんじゃないかと思う。

臨床応用、あるいは研究を大きなサイクル(※北野氏の図http://www.symbio.jst.go.jp/symbio2/whatis.html)としてとらえたときには
既に内包する要素が分かりきったシステムをコンピューターに入力することで、(そのシステムが機能している)現実をシュミレーションするのが「システム学」と捉えてしまってよいのだろう。これをやるには要素の洗い出し、現在の分子生物学で言えばすべてのタンパクの存在、構造、機能などがわかっていないとできない。逆に現実の、いわばもやもやした、要素がいくつあるか分からない状態で、観測されるフィードバックを解明することで現実に生かしてしてみせようっていうのが「逆システム学」と私は理解しているのだが。新しい概念でおそらく研究者によって「システムバイオロジー」、「逆システム学」といったときに想起するイメージがまだ違いが大きいように思う。